「いや助かったよ。さすがの僕もこの量をさばくのはキツくて」
「はぁ…体が甘ったるくなってきた」

シェゾとレムレスの目の前に大量の菓子が積もっている。
何でも仕事で大きな成功をとげたらしく、お祝いにあちこちから甘いものが贈られてきたそうな。
甘いものが好きなシェゾもさすがにうんざりしてくるほど菓子は多い。

しかしお腹が空いていた時にちょうど持ってこられ、
奢ってくれると言ったたので食べないにはいかない。
ただならただで全て貰うのが彼の性分なのだ。

シェゾは黙々と菓子を口に頬張っていく。
その食いっぷりにレムレスはニコニコとシェゾを見つめる。

「よく食べるね」
「まだまだ腹に入る。でも塩からいものが恋しくなってきたな」
「そういうと思って、はいおせんべい」
「食べる」

レムレスには大量に甘いものばかり贈られてくると分かっているので
たまにしょっぱいものを気遣って贈ってきてくれる人がいるのだ。
レムレスとシェゾは一緒におせんべいをかじりバリボリ音を鳴らす。
醤油のいい匂いが甘くなった口の中に広がり、少し楽になる。

「しかしこんなに送られてくるのはお前も大変だな」
「ん?…あぁ、毎日送ってくる訳じゃないよ」

そういえば彼にはまだ言っていなかったか。

「今日僕の進級祝いなんだ」
「進級?」
「うん。簡単に言うと…より魔導師として名誉と発言力を手に入れたってことかな?」

少しばかり大きな依頼仕事だった。
見事に依頼をこなしたレムレスは正式にまたひとつ魔導師として腕をあげた。

―そこまで言うとレムレスははじけたようにシェゾを見やる。
この闇の魔導師は名誉などとはかけはなれた裏の仕事を主に職としていたのだ。
裏の仕事は複雑な事情が絡み合うことが多く、どちらかと言えば人に恨まれる汚れ役でもある。
気を悪くしてしまったかもしれない、レムレスは心配そうにシェゾの顔を伺う。

…が、彼はいつもの無表情でひたすらおせんべいをぽりぽり食べていた。
特になんとも思っていないようだ。
その様子に安堵するレムレス。

「進級よかったな。おめでとう」

ふいにシェゾから投げかけられた祝いの言葉。
レムレスはさらに驚く。

「君が祝ってくれるなんで思わなかったよ?」
「言っとくが、これといった持ち合わせはないから何もやらんんぞ」

彼らしいといえば彼らしい。

「大丈夫。今君が持ってるものでいいから」
「?…どういう、」

次の瞬間、シェゾは目を見開く。
唇に微かにやわらかくて甘い感触が走った。
シェゾは後ろに下がろうとするがレムレスが前に押してきて離れようにも離れられない。

「っ…はっ」
「うーん、しょっぱい」

シェゾから離れたレムレスが唇を一舐めしながら呟く。
せんべいを食べてたから当たり前だ。

「…お前な」
「ふふっいいもの貰った」

レムレスが心底嬉しそうに笑うと、シェゾは睨むように口を抑えた。
ほんの少しシェゾが頬を赤く染めてるように見えるのはレムレスの見間違いか。

「お気に召さなかった?」
「召さない」

即答のち、シェゾは手頃な菓子を持つとさっさと立ち上がり、ここから去ろうとする。
腕いっぱいのお菓子を抱え、そういうちゃっかりしているところがある彼が逞しい。
立ち去ろうとするシェゾの後ろからレムレスの声が聞こえた。

「シェゾ、また君のキスが欲しいな」
「寝言は寝て言え。次から菓子を持ってく」
「つれないなぁ…」

どんな美味しいお菓子よりも君のキスが一番嬉しかった。
意外にも闇の魔導師のキスはなかなかに柔らかくて美味しかった。
だから、次回があればまた強引にでもキスしようとレムレスは心密かに思った。

彼が去ったあと、レムレスが横を見るとあれだけあったお菓子が結構減っていた。
このぐらいの量ならあとは処分には困らないだろう。
レムレスは先程彼が食べていたせんべいを見つけると、それを一つ頬張った。
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