この光景を見るとやはり、シェゾという男は闇に生きているというのがわかる。
草や木も眠る新月の夜、辺りには何も見えない。

それでもはっきりと映る暗闇の中。
目を凝らすとそれは見えた。

「はは、はははっはははは!!あはははーっ!!」

シェゾは楽しげに笑っていた。子供のように無邪気に。
だがシェゾが周りに纏うそれはどす黒く、くすんでいる。
そのミスマッチな姿は一種の狂気をも感じた。
かつて彼があんなにも笑ったところは見たことがなかった。

…―闇の魔導師、

闇がシェゾに親しげにすりより、それに応えるようにシェゾも闇を撫でる。

サァ、と風の音がしたので上を見上げると、月を隠していた雲が割れた。
そしてシェゾについていた闇は、現れた月の光に散って消えた。

あの美しいとは言いがたい黒が、消える時は神秘的で綺麗だな。
そう思ってしまった自分がどこかにいる。
草の茂みから一歩踏み出すとシェゾはすぐにこちらを見た。

「闇は光に消える、だね」
「彗星の魔導師か」

ぶっきらぼうな声色でシェゾが言う。
いつの間にか彼はいつもの無表情に戻っていた。
さっきの笑顔をもう少し見てみたかったと、レムレスは少し残念に思った。

「あれは、君の仲間?」
「ああ。ここでも闇は俺に優しい」

レムレスは普段開けない目をほんの少し開けた。

「君は…闇が大好きなんだね」
「ああ。闇は俺の身体の一部みたいなもんだ」
「そっか」

レムレスはシェゾの言葉にいつもの笑顔で言った。
シェゾにとって闇はいつも傍にいてくれた『友達』のような存在なのだろう。
逆にそれが彼の孤独さも現していて、ほんの少し、レムレスはそれが寂しいような気がした。

「闇と一緒にいるのもいいけど…人の笑顔も温もりがあっていいものだよ?闇の魔導師さん」
「諭すつもりなら諦めるんだな。生憎俺はどんなことになろうともこの生き方を変えるつもりはない。今までもこれからも」
「それは残念だなあ」
「お前もなぜこんな夜中にここにいる」
「別に。なんとなくここにきたかったんだ」

君と同じく暗闇に呼ばれたような気がして、という言葉はレムレスは呑みこむ。

シェゾは数秒こちらを見つめると踵を返し、無言のまま森の中へ入っていった。
あちらの方角は確か彼の洞窟があったはず。家に帰っていったのだろう。

その場に残ったレムレスは帽子を目深に被りなおす。

闇の魔導師が見せたあの心のそこから笑う表情。
自分とは違う遠くの生き物を見たような気がした。
…それでも自分は闇に染まるつもりはない。多分、今までもこれからも。

レムレスはそっと、シェゾが去っていった逆の方向を向くとその場を後にした。
その様子を、闇のような何かがそっと見つめていた。

―――――

シェゾが心の底から笑っているお話が書きたかった。
隠れ闇属性って美味しいよね、全くレムレスさんったら。
同じ闇なのにどっちも生き方が正反対だからいろいろ困る!妄想的に!
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。