「アルルー!さあ一緒に星空のハネムー↑ン☆を…」
「ジュゲムッ!」

サタンがアルルに迫ってジュゲムを喰らわせるという一連。
いつものやりとりが例によってサタンの城で行われている。
ただ、今日はその場にシェゾがいた。

「全く!本当にいっつも迷惑なんだから!行くよカー君!」
「ぐっぐー」

アルルはカーバンクルを連れて足早にサタンの元を離れていった。
シェゾはその様子を無表情でずっと傍観していた。

爆発を喰らったサタンはゆっくりと起き上がり、アルルーと一言叫ぶ。

「うぅ…何故なのだ…私は強くてかっこよくて立派な魔界の貴公子なのに…」

珍しくしょぼくれているその様子はどことなく寂しそう。
普通はそう解釈するだろう。普通は。

「お前、どうしてそんなに楽しそうなんだ」

終始無言だったシェゾがサタンに話しかけた。
シェゾには、サタンがどことなく楽しそうに見えたのだった。

「…お前はたまに鋭いから困るな…まあそういうところも好きなのだが」

サタンはシェゾの方を向き、微笑を浮かべる。
対するシェゾはまた無言になり、サタンをじっと見つめる。

問いに答えろとのことだろう。

「私は、まあ何だ、10万何年生きてるのはお前も知っているだろう?
 10万年の間いろんな人間達と接触した。でもそのほとんどがな…」

『さすがサタン様!この部分など特に…』
『サタン様、今日も見目麗しくござい…』

「…とまあ聞き飽きた褒め言葉をつらつらとな。
 人間ならまだしも魔物達もそんなもんだから退屈で」

小さく溜め息をつくのが聞こえた。
シェゾは何も言わない。

「私は今まで本音を言いあえる者がいなかった。
 アルルやお前みたいに私に向かって
 心から何でもずばっと言う人間はそういなかったんだ。
 ルルーのように本当に一途な女性もいなかった」

ゆっくり、少しずつサタンはシェゾに近づいていく。

「異世界に飛ばされたり体を乗っ取られたりおじさん扱いもされるし…
 でも何だかんだいって私は今の状況が面白い。
 シェゾ、お前もそうなのではないか?」

サタンは目の前にいるシェゾの髪を掻き分ける。
すぐに不快そうな顔つきになった。
それでもシェゾは目を逸らしながら小さく答えた。

「悪くはない…と思ってる」

そうか、と一言呟くとサタンは銀髪の頭を優しく撫でる。
ますます不快そうな顔になっていく。
サタンはその変化が面白くて堪らない。

「…俺の用事は済んだからいい加減帰っていいか?」

シェゾは今日魔導書を借りにサタンの城へやってきた。
その際せっかくだからとサタンにお茶を出されて留まっていたところ、
アルルがやってきてさっきの騒動に至ったのだった。

シェゾとしてはさっさとお帰りしたいところだが、
この気まぐれで寂しがりやなサタンはそうもいかず。

「誰がタダで魔導書を貸してやると言った?」

悪戯な笑みを浮かべる目の前のサタンはシェゾに強く抱きつく。
まるでお気に入りの玩具を大事に抱えるように。
シェゾは諦めたかのように大きく溜め息をついた。

「…変な事はすんなよ」
「失礼だな。私がそんな変態だと思うのか」
「思う」
「即答とはひどいぞお前!」

サタンが少し傷心する。
と同時にシェゾからさっと離れた。

「…?おいどうし…」
「サタン様あぁぁー!!」

数秒経たないうちにドアが普段立てないような爆音を立てて開いた。
と思ったらサタンに真っ直ぐ向かう影がすさまじい速さで抱きつく。

「いたぁっ!」
「サタン様!会いたかったですわ~!!」
「ちょっとルルー!サタンはジュゲムしたばかりで…」

骨が折れそうな勢いでサタンに抱きつくルルー。
顔が青ざめていくサタン。
心なしかハートがあちこちに浮かんで見える。

アルルはルルーと鉢合わせし、例によってここへやってきたのだろう。
そしてまたそれを見つめるシェゾ。

先程サタンがシェゾから離れたのは抱きついているのを
彼女達に見られないようにするためだった。

「今日は魔導書の礼は出来そうにないな」

シェゾが小さく呟く。
この分だと、例によってまたいつもの喧嘩騒ぎになるのだろう。

抱きついていたルルーをアルルが止め、ルルーが怒り出す。
サタンは苦笑いで二人の間を取り持つ。
後にシェゾも合戦に加わっていくだろう。

そして大騒ぎになっていく。

(これだから…本当に楽しい)

サタンは喧嘩騒ぎの中、楽しそうに笑う。
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