「………」

シェゾはプリンプから外れの森を歩いていた。
足を止める。

辺りが静まり返る。

また歩いていく。
すると後ろの方から同時に足音が聞こえる。

シェゾは茂みの中に入り、木陰に隠れた。
だんだんと足音が近づいてくる。
素早く木陰から躍り出た。

「ひっ!…あ、あの…」
「何の用だ。こそこそ人を付回したりして…」

目の前にいたのは10代後半の若い女の子だった。
まだ幼さが顔に残っている。
女はシェゾを見ておどおどしている様子だ。

やがて、少女の強い意志が瞳に宿り手紙を渡される。

「これ!受け取ってください!」
「なっ…お、おい」

そう言うと少女は脱兎のごとく走り去っていった。
手の中にある手紙はうすいピンク色の清楚な雰囲気のある封筒だった。

「モテモテだなシェゾ」

至近距離のすぐ後ろから低い声が聞こえ、シェゾはバッタのように前へ飛び退った。

「お前!!気配を消して俺の後ろに立つんじゃねえ!心臓に悪い!」
「で、何て書いてあるんだ」

怒鳴るシェゾを華麗にスルーしたサタンは
にやけながら手紙の内容を問いかけた。

「何でそんなこと…お前には関係ないだろ」

そういいながらシェゾは手紙を破いて紙を取り出す。
短い文なのですぐに読み取れた。

『好きです。付き合ってください』

シェゾは無表情でその手紙を見つめ、
その横から覗き込んだサタンも無表情で見つめる。

二人の間に少しの間沈黙が流れた。

「…付き合うのか?」
「んなわけないだろ」

サタンの問いに間髪いれずシェゾは即答。
相手が悪かったな、とサタンは苦笑いする。

その日はそうして普通に終わった。

―――――――――――――――

しばらくして、シェゾはまたその森にやってきていたのだった。
単にジリ貧で食べられるものを探しに森へやってきたという何とも悲しい理由だが。

歩いていると、木の上に美味しそうなリンゴが実っていた。
と認識する前にシェゾはリンゴを採りに木へ向かう。

手を伸ばすが、180cm前後でもさすがにリンゴには手が届かない。

「採ってあげようか?」

後ろからあどけない声が聞こえる。
シェゾが振り向くとあの少女が笑顔で佇んでいた。

「俺だって木登りくらい出来る」
「そういうわけじゃないんだけど…」

クスッと少女は笑い声を少し出し、シェゾを見据える。

「ねえ、この間の返事…そろそろ聞かせてくれないかな」
「すまないが、俺はお前とは付き合うことはできない」

少女の問いに間髪入れずシェゾは即答。
この間も同じような事があったような気がした。

「何で? あのお兄さんとはとてもいい感じなのに」
「お兄さん…サタンのことか?」

シェゾはお兄さんの単語に噴出しそうになるがそこは抑え、シェゾは反論する。

「いい感じもなにも、俺とサタンは只の腐れ縁だ」
「ふうん…」

すると少女はゆっくりシェゾに近づき、抱きついて顔を合わせた。
万人が幸せになれるような綺麗な笑顔だ。
シェゾは、よく一緒にいるアルルをつい連想した。
でも、この少女の正体は――

「だったら…私が貴方を貰ってもいいよね?」

少女の唇がシェゾの顔にゆっくり近づいていく。

なぜか、シェゾは抵抗ができない。
体を動かしたくても動かせなかった。
唇が重なり合おうとしたその時。

「悪いな。こいつはもう売約済みだ」

サタンはシェゾの手を引き、少女から引き離す。
自分より背が高い者に抱きしめられるこの感覚。
シェゾは上を見上げる。

赤い瞳、緑の長い髪。
いつ見てもむかつく。

少女は二人に向き合った。

「邪魔、するの?」
「こいつは貴様には高嶺の花だ」

妖しく笑うサタンは目の前にいる少女とは対象的に闇に満ちていた。
まさに闇の貴公子と呼ぶのにふさわしかった。

「そう。………あーあ、闇の魔導師、欲しかったのになぁ…」

残念そうに少女は呟き、再びシェゾの方に向きなおす。

「まあ、確かに私には少し手が余るかな。シェゾ、さんだっけ?
 よかったね、素敵な闇と出会えて。末永くお幸せに」

そう言うと少女はすっと葉に包まれ消えていった。
風が二人の間に少し吹き起こった。

後ろの木のリンゴが数個落ちる。

「よほど好かれていたようだな、シェゾ?」

サタンはシェゾから手を離し、リンゴを手に取った。
とても美味しそうなリンゴだ。

「ふん…森の精霊なんかに現は抜かさない」
「じゃあ何であの時抵抗しなかった? 本気を出せば森の力位吹き飛ばせたはずだ」

それは、と言いかけシェゾはためらった。
まさかあのアルルを連想してしまったから、なんて。

「アルルと通ずるものでもあったのか?」
「…お前はエスパーか」

的確に突いてきたサタンをついシェゾは呆れた表情をする。

「まあ確かに私のフィアンセは清くて正しくて、可愛くて素直で、お前とは正反対だしな」
「だったらアルルだけ追っかけてればいいじゃねえか。何で俺なんかに構うんだよ」

シェゾはリンゴを拾い始める。
どれも本当によく熟れたリンゴだった。

「…別に構ってなんかいないぞ? 私の行く道行く道にお前がいるだけだ」
「そりゃ悪かったな」

リンゴを全て集め終わったシェゾはその場を去ろうとする。
後ろからサタンの声がかかった。

「シェゾ~そんなに食い物に困ってるんだったら今度私の城にでも…」
「誰が行くか!」

しかし数日後アルルとルルーと一緒になぜかサタンの元に向かうことになる。
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