昼下がり―――
洞窟の中から甘い匂いが漂っている。

「ふう…今回はチョコ入りクッキーを作ってしまった…」

洞窟の中でシェゾがぽつりと呟く。
目の前には数十枚の焼きたてクッキー。

ちょうどクッキーの材料とチョコレート一枚が目についたので
チョコクッキーを作っていたのだった。

我ながらいい出来だ、と得意げにシェゾは
焼きあがったクッキーを皿に盛り付けテーブルへ運ぶ。

菓子でも食べながら大人しく読書しているの悪くないな。

そう思いながらシェゾは椅子に腰掛け本を開く。

「あっ何だか美味しそうな匂いが!」
「この匂いは…バターとチョコの匂いが強いですね」
「ちょ、ちょっと二人とも!そっちは…」

外の方から3人ぐらいの声と足音が聞こえる
と思ったらすぐにその3人組の姿が見え始めた。

「あっ!ヘンタイのお兄さん!」
「おや。ヘンタイと噂の魔導師さん」
「わあ、ヘンタイシェゾだ」

「お前らいきなり何だ。
 それと揃いも揃って俺の事をヘンタイってい・う・な!!」

洞窟にやってきたアミティ、りんご、アルル一同。
変態と言われ怒っているシェゾよりお菓子の方に興味があるようだった。

「理解しました。この匂いはヘンタイさんの隣に置いてあるクッキーからですね」
「とっても美味しそうな匂い!」

アミティとりんごはクッキーの方に目を向けている。
アルルは二人の少し後ろで苦笑いをしながら手を合わせてこちらを見ている。

アルルの言いたい事は分かっているシェゾは一つため息をついた。

「…お前らも食べるか」

「ホント?お兄さん優しい!」
「ではお言葉に甘えまして」
「…シェゾ、ありがとね」

3人は一気に笑顔になる。
シェゾは一人分の予定だった紅茶を四人分作る。

お茶会は何事もなく和やかに進んだ。

「このとってもチョコクッキー美味しいよ!」
「なかなかの味ですね。美味しいです」

「シェゾは昔から料理だけは上手いんだ」
「…だけって何だ」

一人で静かに食べるつもりだったクッキーは3人がいることによりすごく賑やかな時間になった。

いっぱいあったクッキーのお皿は空になった。

「とても美味しいクッキーでした。ありがとうございましたヘンタイさん」
「ありがとうお兄さん!クッキーの味レムレスといい勝負だったよー!」
「ありがとうシェゾ。お礼に今度僕がカレー持ってくから」

3人がそう言うとお辞儀をして去っていく。

いろいろと今のお礼の言葉に突っ込みたい部分があったが
シェゾはキリがないので気にしないことにした。

賑わっていた洞窟が一気に静かになる。
しばらくシェゾは出口の方向を見つめていた。

「さて…後片付けでもするか」
「シェゾー!」

後片付けに取り掛かろうと思った瞬間聞きなれた声が洞窟の中に聞こえた。

「サタン…何の用…うわっ!」
「シェゾ…貴様…アルルとクッキーを食べたのか」

いきなり洞窟にやってきたかと思えばシェゾはサタンに胸倉を掴まれ真顔で尋問される。

「そうだよ…あっちの方が勝手に俺の住処に入ってきて…」
「我が妃一緒にとクッキーを食べたなんてうらやましいぞ!私にもクッキーよこせ!」

胸倉を掴まれていた手を激しく揺さぶられ、シェゾの視界がガクガク揺れる。

「な、何でそうなる!それにもうないぞ!」
「…そうか」

シェゾのその一言で一気にしおらしくなったサタン。
シェゾから手を離し、サタンは猫背になってしょぼんとした様子になる。

うっかり。
その様子を見てうっかり言ってしまった。

「まぁ…何だ…今度はマフィン焼こうと思ってるから…お前も」
「本当か!本当だな!?約束だぞ!」

最後まで言ってないにも関わらずサタンの中ではお茶会が決定したようだ。
サタンは満面の笑みをシェゾに向けた。
その様子を見てシェゾは本日何度目かのため息をつく。


(こいつは分かってるんだろうか。
 お前が落ち込んでるフリをしてたのを俺は知ってたこと
 分かってて、誘いをかけてしまったことも)

シェゾはサタンを見ながら心の中で微かに笑う。

(こやつは分かってるのだろうか。
 私が落ち込んだフリをしてたこと
 そうまでしてお前の手作りが食べたい私の感情も)

サタンはシェゾを見ながら心の中で妖しく笑う。
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