―近頃寒くなってきた
そう思っているのはシェゾだけではない。
シェゾの隣にいるサタンもそう思っていた。

「全く…あっという間に寒くなってしまったな…」
「寒くても厚着すれば問題ないだろう」
「でも寒いのは苦手だ」
「そうかよ」

冷たい秋風が漂う。
街を行く人々は寒そうにしている。

ふいに、ふわっといい香りが風にのって運ばれてくる。
シェゾはその匂いのする方角へ目を向ける。
そこには屋台で肉まんが売り出されていた。
この寒さのせいか結構な人だかりと列が出来ていた。

食べたいな、とシェゾは一瞬思ったが金を持っていないことを思い出し諦めることにする。
しかし次の瞬間サタンが肉まん屋へダッシュしていった。

「なっサタン…」
「シェゾー!ちょっと待っててくれー!」

魔王様が肉まんを買うためすごいスピードで走っていくシーンはさすがにとまどった。
そんなシェゾを尻目にサタンはそこで待つようにとシェゾに言いつけた。

別にサタンの言う事なんか馬鹿正直に聞かなくてもいいと思ったが
おそらくあの様子から見て肉まんを二つ買ってくるのだろう。
ただでもらえるものはもらっておくというちゃっかりした考えが勝り、シェゾはその場で待つことにした。

数分後、ようやくサタンの出番になったようだ。

「肉まん完売でーす!」

声がかかったと同時にサタンより後ろにいた人々はそろって残念そうな顔をする。

さっきサタンが急いで走っていったのは正解だったのか、と
こちらに向かって走ってくるサタンを見つめながら考える。

「あ~…シェゾ、実は…」
「一つしか買えなかった、か?」
「よく分かったな…」
「状況からみてそんなとこだろうと思っただけだ」

どうやらサタンの番ですでに肉まんは一つしか残っていなかったらしい。
やむをえなく一つだけ買ってきたとのこと。

まあ仕方がないとシェゾは無言で歩を進めようとするとサタンから声がかかった。

「シェゾ、ほら」
「…ん?」

見るとサタンの手に肉まんの半分がこちらに差し出されていた。

「半分。これでどちらとも食べれるだろう?」
「そこまでしなくてもお前が全部食べればいいじゃないか」

一瞬の間が流れた。

「そんな可愛くないこと言わずに!ほら食べる!」
「ちょっむぐっ」

シェゾは無理矢理肉まんを口に頬張られた。
サタンはその様子を笑いながら自分の分の肉まんを食べる。

「んむ…美味い」
「うむ。とっても美味しいな!」

二人が食べた肉まんは予想より美味しかった。
口の中に広がるお肉の味に体があったかくなる。

「ん、サタン」
「何だ?」

「その…ありがとよ」

その声はとても小さかったがサタンの耳にはかろうじて聞こえた。
サタンは驚きの表情に変わる。

「貴様が礼を言うなんて…よほど腹が空いていたのか?それとも明日槍が降るのか?」
「お前…人がせっかく…」

シェゾは隣のサタンを睨みつける。

「そんなに睨むな。貴様から礼を言われることもあるんだなと少し驚いただけだ」
「俺だって礼ぐらい言うぞ」
「そうか」

そんな当たり障りない会話をしながら二人は街を歩いていく。
手元の肉まんはもう食べてしまったが、二人の体はとてもあたたかかった。
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