風味豊かな馳走。
絢爛豪華な宝石。
多く流れる名声。

全てが用意されていた。

ーーーーー

「いやはや、王子は賢いですなぁ。感服します」
「そうなのか?余は賢いのか?」
「ええ。王子は世界で一番賢い王子ですぞ」

大きなお城の小さなお部屋に一人の小さな男の子と男の人がいました。

小さな男の子は王子様。
国を自由に動かせる小さな子供です。

王子は自分の部屋で、お髭を生やした男の人と遊んでいました。

お髭の人は貴族でした。
お髭さんはよく王子と遊んでいます。
王子はお髭さんが好きでよく一緒に遊んでいました。
なによりおもちゃの兵隊さんのようで面白いと思ったからです。

「王子!お勉強の時間です!」

王子の部屋の扉の向こうで声がします。
扉の向こうにいるのは王子のオトモです。
王子はこの瞬間がとても嫌いでした。

いつまでもお髭さんと遊んでたい、王子は強く願っていました。

王子は出ていくのを渋ります。
そんな王子を見てお髭さんは言いました。

「王子、貴方は賢い。お勉強してもっと賢くなればまた遊んであげますよ」

その言葉を聞いた王子はゆっくり立ち上がり、
お髭さんと一緒に部屋を出ていきます。

「いつも王子のお世話、感謝してます」

王子のオトモは部屋から出たお髭さんにお礼を言いました。
そしてオトモはすぐさま王子をひっぱり、勉強部屋に連れていってしまいました。



それから王子は二度とお髭さんに会うことはありませんでした。

いつまで泣いても自分の部屋にお髭さんが来ないのです。
オトモに聞いても、メイドに聞いても、シェフに聞いても、
誰も知らないというのです。

王子は泣いて泣きました。
オトモが隣で背中をさすっています。
オトモは言いました。

「お髭さんにはもう会えないでしょう。でも王子。私はいつまでも王子の御側にいます。」

王子は、泣きました。
オトモの腕の中で、たくさん泣きました。

ーーーーー

「おい、お前王子に気に入られたんだって?」

草木も眠ろうとしている夜。
深い深い闇の更に深い所にその集会場はあった。
明かりは黄色の光がぼんやりついているだけで、
周りには仮面を被った身なりのいい老若男女が数十人ほど談話をしている。

人だかりの真ん中に髭を濃く生やした男が愉快そうに笑っている。
髭が特徴的なその男は王子に気に入られたということで
周りの貴族は一目置いていた。

「いいなぁ…どうやってあの王子に近づいた?」
「ちょっとばかし褒め称えてやっただけさ。
 それだけでコロッとなつきやがった。正直チョロすぎて拍子抜けだ」

王子に気に入られるということは人生勝ったも同然だ。
娘を結婚させるもよし、あんなに幼ければ洗脳して裏から政治を操ることも容易だ。

「心配しなくとも、あのガキが成長した暁には
お前らにたんまり宝石でも名声でも何でも与えてやるよ!」
「おいおいガキじゃなくて王子様、だろ?仮にもこれから俺達の金づるになるんだからよ」
「違いねえ!あっはははは!」

貴族とは思えない下卑た笑いがあちこちに響きわたる。
その時ー

「残念ながらそうはいきませんね。私の大事な王子なので」

確固とした意思を感じるはっきりとした声は
笑い声を沈ませるのには十分だった。
その声の先には黒い鎧を纏った数名の騎士。先頭には王子に仕えるオトモがそびえたっていた。

この事態に貴族達は当然焦った。
下手をすれば明日から路頭迷いの貧乏人と成り果てる。

必死にこの事情を言い訳し媚びる者、
たかが相手は数人と剣を構える者、

見事に二つに別れた貴族の塊は一気に喧騒に包まれる。
しかしオトモはある方向をただ黙って見据えていた。

視線の先にはいつも王子と遊んでもらっていた髭の男。

「ちょ、ちょっと待って下さいオトモさん!
 私は王子から決して金を巻き上げようとした訳では…」
「言い訳無用です。貴方、裏でかなり顔を利かせてるそうじゃありませんか。
 大方、裏で活動しているうちにお金が足りなくなり、そして王子に接近したと」

オトモの小さな目には怒りでも悲しみでもなく、ただ無を見る目付きだった。
まるでこうなることが当然だったかのように。

「おい待てよ!俺はあの我が儘なガキにわざわざ付き合ってあげたんだぜ!?
 恩を仇で返すのかよっっ!!」

興奮のあまり髭の男は本性が現れ、汚い言葉が飛ぶ。
対するオトモは冷静だった。

「ええ。王子のお世話をしてくれたことには感謝しています。本当に。ですが…」

次の瞬間、髭の男は目を見開いた。
どす黒い液体が床にこぼれ落ちる。
それはワインか、血か。

オトモが剣を引くとあつという間もなく髭の男は前に倒れる。

「それとこれとは話が別です」

上から冷ややかな声で発する。

油断していた訳ではなかった。
本当に一瞬のうちに髭の男に迫り、体をひとつきしたのだ。

これを皮切りに貴族達はパニックとなる。
後ろの黒い騎士達も加わり、あっという間もなく剣と剣が飛び交う乱闘となった。

王子に仕える身のオトモの剣術はずば抜けていた。
選りすぐりの騎士達も負けてはいない。
聞きかじりの貴族達の剣は全く歯が立たず、部屋が静かになるまで時間は掛からなかった。

ーーーーー

「オトモよ」
「何ですか?王子」

この間まで王子はプリンプでオトモと逃走劇を繰り広げていた。
今はさかなの姿だが、大事な王子に変わりはないとオトモは王子を城に連れ戻そうとする。

今日王子は珍しくそのまま逃げず、花畑でオトモと対峙していた。

「オトモよ、お主、何故余を連れ戻そうとしない」
「え?してるじゃないですか」
「違う。本気で連れ戻そうとしてないじゃろう?」
「………」

そう。
本気で王子を連れ戻そうとするならば
城の人々を総動員で捕まえようとすることもできるのだ。
何故それをしないのか。

答えは明白。

ー私は、王子が城に戻ってほしくない?

もう、二度とあの事件のようなものを起こしたくない。
王子という肩書きに群がり媚びる貴族達から離れさせてやりたかった。

と、オトモはこの考えを必死に否定する。
一国の王子が戻ってほしくないなんてあるまじき考えだ。

王子はオトモに言った。

「おぬしは余が小さい頃からいろんな魔の手から守ってくれていたことを知っている。
 数え切れないほど見えないところで働いてたのだろう?」
「…っ」

王子にはもう誤魔化せない。嘘がつけない。
誤魔化せないほど成長したから。

それでも見透かされたような王子の言葉にオトモは少し体を震わせる。

「余は自由を求める。これは我が儘でもなんでもなく余の願いなのだ。
 余は全力でおぬしから逃げる。もうあの城で、上辺だけの幸せの中で暮らすのは嫌なのじゃ」

その言葉には確かに強い意思が感じられた。
王子は本当に自由を求めているのだ。

「ならば、王子。私も全力で貴方に付き合います!」

その意図は城に連れ戻そうという意味か、旅のオトモになるという意味か、
そこをはっきりと言わないオトモに王子は微かに笑った。

「おぬしだけは何があっても余の味方だ。おぬしがいて本当に良かった」

王子は小さい頃からちやほやされていました。
偽りの愛と幸せの中、サアルデ・カナール・シェルブリックという自分個人を見て
笑って、悲しみ、怒ってくれる。小さい頃からずっと守ってくれた唯一の人間。
そんなオトモが王子はとっても大好きでした。

―――――

思ったんだよ
何でさかな王子って、オトモしか連れてないの?
旅にしても王子だからもっと人連れててもいいはずなのに

とか思ってたらさかな王子の過去の妄想が爆発してこうなった
作中でもさかな王子は「城の暮らしはもう嫌だ」と言ってましたし

オトモ一人しか連れていないということは
逆に考えると信頼できる他の人間はオトモしかいないってことなんじゃないかな

そんな事情があったらいいですね萌えますね!
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