「明日は山登りの遠足です」

帰りの話の際、担任のアコール先生が言うと同時に
教室は嬉しい声があちこちからあがる。

そう。明日はプリンプ学校総出での遠足の日。
その事に歓喜する子供は多い。

ーただ、一人を除いては。

「リデル!明日の遠足楽しみだね!」
「あっ…アミティさん」

学校が終わり、子供は帰路についている時。

アミティはリデルに話しかけたのだった。
隣にはラフィーナ、シグが連なっている。

「山登りなんて登り飽きてますわ。あなた方も崖登りしたらよろしいのに」
「それはちょっと遠慮しとこうかな…」
「虫、いっぱい採れるかも」

一人一人の思考は違っているが、なんやかんやで明日の遠足を楽しみにしていた。

「あの…アミティさん」
「なぁに?」

言うべきか、言わないべきか。
こんなに楽しそうに話している時にこの事を言うのは
ひっこみ思案のリデルにはレベルが高い。
だからー

「いえ、明日…晴れるといいですね」
「うん!晴れるよ!」

元気に去っていく友達の後ろ姿を見ながら、気持ちが落ち込む。
言えなかった。

―――――

「どうしよう…」

リデルは森の中、溜め息と小さな呟きを漏らす。

リデルは感じている。
明日が雨だということに。

リデルは天候の魔法を使う。そして明日の天気を予知する能力があった。
普段あまりひけらかしてはいないので、天気を聞かれるということはなかったが…

明日雨だとういうことを告げればアミティ達が悲しむ。

そう思ってしまったリデルはどうしても明日の天気を言い出せなかった。

今日何度か分からないため息をつく。
足取りも心なしか重い。

「どうした。元気がないな」

いつの間にか目の前にいた人物にぶつかる。
うつ向き加減で歩いていたため、見えなかったのだ。
リデルは驚いて飛びずさる。

「ああ、すまん。大丈夫か?」

ぶつかったのはサタンだった。
リデルが最も尊敬する角仲間であり、おにいさまである。

「おにいさま…」
「っ…その呼び方はやめてくれないか」

と、促したところでこの呼び方はやめないのがリデルだった。
そうとうサタンのことが気に入っているのだろう。

それを分かっているサタンはこれ以上追求せず、リデルの落ち込みの理由を訪ねた。

「で、どうしたんだ?元気がないようだが」
「おにいさま…明日雨ですよね?」
「ああ、雨だな」

やっぱり…とリデルはますます落ち込む。
明日アミティ達は悲しむのだろう。
そう思うだけで泣きたくなる。

泣きの気配を感じたのかサタンがあわてる。

「いや…明日が雨だと困るのか?」
「ぐすっ…はい…」

明日雨が降ると困る理由を話す。
遠足があること、
アミティ達が楽しみにしていること、
雨だと遠足が中止になること、

「ふむ…なるほどな。それで明日雨だと困るというわけか」
「はい…」

全て話終えるとリデルはまた少し泣きたくなってきた。

サタンは一瞬思案顔になり、リデルに向き直る。
立ったままの会話なので、リデルにとってすごくサタンは大きかった。

「では、このハンカチをやろう」

サタンが腰のポケットから取り出したのは一枚の白いハンカチ。
受けとると、すごく上質な布だということがリデルにも分かった。

「…これは?」
「これはちょっと特別なハンカチでな。
 これでてるてる坊主を作れば一回だけ明日の天気を晴れにしてくれる。」
「ええっ!?」

天気を変える魔法など熟練の魔導師でも出来る芸当ではない。
天気を扱う大変さを分かっているリデルは
この天気を変えるアイテムにますます驚いた。

「こ、これ…とても大事なものなんじゃないですか?」
「いや、それほどでもない。さあ、早く家に帰って飾ってやれ。
 明日晴れになってほしいのだろう?」

次の瞬間サタンの目の前から少女は風のように消えていた。
リデルに転移魔法を使ったのだ。

サタンはいなくなったリデルの代わりにため息を漏らす。
そして静かに森を後にした。

先程交わされていた会話も、魔法も、
何事もなかったかのように森は全てを包み込んだ。

―――――

次にリデルが目覚めたのは自室のベッドの上だった。
時計の針は午後4時を少し過ぎた頃を指している。

ふとリデルは手に何か握っている感触を感じ、
両手で目の前に広げる。

白いハンカチだった。

「夢じゃなかった…」

あの森での出来事は夢などではなく、現実という確証が出来た瞬間。

リデルは勢いよくベッドから起き上がりすぐさまハンカチでてるてる坊主を作った。

自室の窓にぶらさげ、てるてる坊主を飾ってみると
ぷらんと宙吊りで左右に揺れた。

触ってみるとさらっとした触感が指をくすぐった。
魔力の気配は感じられない。

―不思議な方です、おにいさま…

見たところ鬼でもないし、魔物、という感じもしない。
あれは…むしろ…

「神…なんてことはないですよね」

しかしそう言われれば納得してしまうほどサタンを尊敬していた。
明日はきっと晴れになるという、妙な安心感もあった。

リデルは家を出ると明日のおやつを買いにいく。
明日絶対晴れますようにという意味も兼ねて。

―――――

「リデル!こっちこっち!」
「頑張れー」
「ま、待ってくださいアミさん~」

坂の上でアミティ達が大きく手を振っている。

リデルは必死に普段上らないような坂を登っていた。
傍らにはアコール先生がついている。

「頑張ってください、リデルさん」
「はい!頑張ります」

先生と生徒の応援を受け、頂上を目指す子供達。

天気は文句のない快晴だった。
日が照って熱いほどだ。

「あら?リデルさん…そのてるてる坊主」

アコールはリデルの青いリュックに付いているてるてる坊主に気が付く。

「これ、昨日おにいさまが魔法のハンカチだってくれたんです」
「魔法の…ハンカチ?」
「ええ。これでてるてる坊主を作ると一回だけ晴れにしてくれるみたいです」

そう言うとリデルはアミティに急かされ、急いで山を登っていった。
アコールはまだ下の方で頑張って登っている生徒達を見張ることにした。

ふと、登山にも欠かさず持っているポポイが囁く。

「あのハンカチ、ただのハンカチニャ。魔力なんて感じられないニャ。」
「ええ…サタン様、今頃雨雲を蹴散らして晴れにしてるんでしょうね」

意外な一面発見とばかりにアコールは表情は変えないものの心の中で静かに笑う。
何はともあれ、今日が晴れだったことに、晴れにしてくれたことに感謝の意を表していた。

ちなみに明日は雨が降るらしい。

―――――

リデルとサタン様の絡みが平和すぎる
なんだかんだでサタン様って自分に本当の好意を寄せてくる女性は無下にしないよね
ルルーも他の女性より柔らかい対応だし

シェゾもフラグ建築家ですが、サタン様もなかなかのフラグ創立者ですよ
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