「シェゾ様、遅いニャ」

ほうっと言葉を紡げばそのたびに白い息がふわりと漏れ出る。
外はもうひたすら白く、雪がしんしんと降り注いでいた。

「ボク達が待たないで誰がシェゾ様の帰りを待つニャ!」

甲高く、可愛らしい声が洞窟に響く。
ある洞窟の前に数匹の猫の魔物、リュンクス達が集団で丸くなって外を見つめていた。
その小さな鼻の先は赤くなっていてときせつくしゅんと小さなくしゃみが聞こえる。

あまりの寒さに洞窟の寝床へ戻ろうかとも思った。
あそこは自分達の大好きなシェゾの匂いでいっぱいだしとてもあったかい。
でもリュンクス達は外が見える場所にいることにした。
少しでも主人の帰りを早く確認したかったから。

「…寒いニャ」

誰かリュンクスがぽつりと呟いた。
それはどのリュンクスだって同じだ。毛皮に包まれているとはいえ寒いものは寒い。
しかし毛皮を纏っていない主人はもっと寒いのかもしれない。
そう思うと言い知れない不安が広がった。

寒くないだろうか。お腹は空いてないだろうか。
どのリュンクス達も同じような心配をしていた。

「シェゾ様、帰って、くるかニャ」

一匹のリュンクスがすり、と首もとに巻き付いている
マフラーのような縞模様の尻尾をその小さい前足でさする。
これを見るといつも自分達の長いしっぽをかわいく結んでくれたシェゾを思い出す。

最初はシェゾがリュンクスの長い尻尾を踏んでしまい、
シェゾは邪魔臭いからとリュンクスの尻尾を結んでしまった。
が、リュンクスはそれが大層気に入ってしまった。
この尻尾は自分達も少し長すぎると思ったのだ。
以来シェゾの洞窟には尻尾が結ばれているリュンクスが蔓延るように。

リュンクス達は迷惑だろうかと思ったが、
シェゾは別段追い出すようなことはなかったし、ぞんざいに扱うようなこともなかった。
むしろ金が入った時はリュンクス達にミルクをあげてたくらいだ。
いつしか立派なシェゾの洞窟の小さなお世話係。

無口で無愛想で、たまに笑うととっても素敵なご主人様。

ある日を境に突然帰ってこなくなった。

リュンクス達は別に飼われている訳ではないため、ここを後にするという選択もあった。
でもリュンクス達全員がここでひたすらシェゾの帰りを待つことを選んだ。
あれから何日経っただろうか。

また、一匹のリュンクスが元気な声で誰かに話しかけた。

「きっとボク達には想像もつかないほどすごい戦いに行ってるニャ。…ボクはずっと待つニャよ」

そう、きっと帰ってくる。
ご主人様はどこぞで野垂れ死ぬような人間じゃない。

その一心でリュンクス達はただただ外を見つめる。
帰ってくるシェゾを迎えるため。

その時突然、紙が空から降ってきた。

「ニャ、ニャんニャ?」

ぺたりと張りついた額の紙を剥がして見ると、そこにはシェゾのかっこいい姿。
シェゾが写された写真だった。

「ぱおーん」
「て、てのりぞう!シェゾ様のスナップ、まだこんなに隠してたのかニャ!?」
「ぱおー!」
「わー!め、めっめちゃくちゃかっこいいニャーッ!!その写真も見せるニャ!」

静かな洞窟が一転、一気に場が騒々しくなった。

てのりぞうが撮ったシェゾの写真、その写真はシェゾの寝顔から戦闘姿までよりどりみどり。
傍でカメラを撮っても怒らないてのりぞうならではの宝物らしい。
重々しい空気がなくなり、リュンクス達は思わず笑顔になった。


しばらく騒いだ後、リュンクス達は眺めた写真をてのりぞうに返した。
てのりぞうはその写真をどこから取り出したか四角い入れ物にしまった。

「てのりぞう」
「ぱお?」

リュンクスがいつも怒っているような大きい目を細めた。

「どうも、ありがとニャ」
「ぱお、ぱおん!」
「お前も一緒にシェゾ様、ここで待つニャ?」
「ぱおっ!」

てのりぞうは軽快にジャンプしてそのまま丸まっているリュンクスの群れに潜りこんだ。
そのまま、すうっと息を吸い込む音が微かに聞こえた後、

「シェゾ様、ボク達いつまでも待ってるニャー!!」

「ぱおーん!」
「ニャー!」

一匹のリュンクスが誓うように高らかに叫び声を上げると
それに続けてリュンクスとてのりぞうの声が大きくあがった。

ある日の、洞窟の、小さな出来事だった。

―――――

リュンクスさん達まだ待ってるんでしょうかね。
もう最低でも7年ぐらい経ってるんですが!(メタ
そもそもリュンクスとてのりぞうは魔導にしか出てないし、ぷよBoxの洞窟にも出てる感じはなかったので
シェゾのオトモというのは自然消滅した設定みたいな感じですよね…

今回のシェゾが帰ってこない話はシェゾが戦いに赴いて永遠に帰ってこない悲観な話か
単にプリンプ世界行って帰ってこないけどいつか帰ってくるかもしれないという話か
そこらへんは想像に任せます。
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