「はあ…」

しとしと、か、じめしめ、か。
とにかく湿気がすごい。
シェゾのいるこの洞窟は風通しがよく、湿気もあまり感じられないが
当の本人が水と湿気を含んでいるため不快感を煽る。

「かなり降られたな」

シェゾはさっきいきなりの雨に降られ、雨宿りするところを探し歩いているうちに
テレポートを使えることを思いだし、転移で寝床へ帰ってきたのだった。
最近使ってなかったとはいえすぐに思い出してもよかった。おかげで髪と服はびしょびしょ。
さらに今日一日外に出歩けないことを感じると気分は降下気味。
濡れた髪を少しかきまわす。

ぴちゃっ…ぴちゃっ

遠くの方向から音が洞窟に響いた。
シェゾが下げていた顔を上げ耳を澄ます。
足音だ。普段は聞こえない水を含んだ音。

来客の姿が見えるまで時間はかからなかった。
青い触覚を水に濡らした少年がシェゾの前に現れる。

「………」
「………」

無言。雨の音意外何も聞こえない。
シグはシェゾの方をじっと見つめている。シェゾもつられて見つめ返す。

沈黙が続くなか、先に喋ったのはシグだった。

「雨、降ってきた。雨宿り」

シグは雨宿りのためここにやってきたらしい。
歩き回ったのかかなりずぶ濡れだった。

「…静かにしておけよ」
「分かった」

会話を交わすとシグはシェゾよりちょっと離れた向かいの方に腰かけた。

もともとどちらも無口なせいか
喋ることもない状況の中、また沈黙が洞窟の中に続く。

シェゾは濡れた服を脱ごうと金属の装備に手をかける。
それはよかったのだが、その中の布の服が水に濡れているせいで脱ぎにくい。

…くしゅっ

「んんー…寒い」

小さなくしゃみが聞こえた。
見ると、シグはうずくまって少し震えている。
濡れた体に湿った風。
かなり寒いのだろう。

「わっ」

いきなりシグの視界が暗くなる。
驚いて上から降ってきたものを確認すると、一枚のふわふわの毛布とタオル。

「ほら、それで拭いて毛布でも羽織っとけ」

手渡されたのはシェゾが荷物間から投げ渡したものだった。
タオルは大きめで鼻を近づけると柔らかい匂いと感覚に包まれた。
毛布の方も同様だ。

(柔らかい………)

シグはそのままタオルで濡れた髪と服を拭き取る。とても心地よい。

あらかた拭き終わった頃、毛布をたぐり寄せ前を向くと
シェゾの方は紺色のタンクトップにズボンだけの姿で髪を拭いていた。
濡れてしまった服は隅に重ねてある。

シグは服でも格好でもなく、ただシェゾを見ていた。
銀色に透明な水を纏い、それを拭き取っていく姿はとてもー

「シェゾ、きれい」

だがらつい、言葉にしてしまっていた。
シェゾは少し驚きを見せた。

「…は?あぁ、水晶のことか。この水晶は魔力を高める効果があるらしいぞ。少し持ってくか?」
「………いらない」

どうやらこの男はかなりズレた思考と感覚の持ち主のようだ。
シグはがっかりにも似たような気持ちで毛布を抱き締める。

ーーーーー

いつの間にか眠っていたようだった。
シグは浅い眠りから引き出されるよう目を開ける。

雨の音は止んでいた。
彼はどこだろうか、視線を横に向けるとすぐに見つかった。
シェゾはシグを起こすことはせずただひたすらに本を読んでいたらしい。
その方がかえってシグにも気楽ではあった。

雨が止んだならばここにいる必要もない。
シグは立ち上がり、毛布とタオルをたたんでシェゾに手渡しながらお辞儀をした。

「ありがとー…シェゾ?」
「なんで疑問形なんだ」

シェゾは本を置いて顔を上げる。
シグはその場からなかなか動かない。

「ねえシェゾ」
「何だ」
「また、来てもいい?」
「…好きにしろ」

シェゾが投げやりに言うとシグは間をおき、にっこり笑った。
元来た道を戻ってここから去っていく。
姿が見えなくなる前にシグは振り返り、

「ばいばい」

と一言だけ呟きあっという間に姿が見えなくなった。
洞窟はときおり雫の落ちる音が響いていた。雨の音は聞こえない。

あの少年はまた来るのだろうか。
そう思うとシェゾは何とも言えなかった。

「…本当にここは変なガキが多いな」

サタンが前にそう言ったのを分かった気がしたシェゾだった。

―――――

携帯でほそぼそ書いてた小説
地味に完成したのでうpしてみました
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