異世界、そこに違和感はない。
勇者ことラグナスは異世界を行き来している者だったから。
むしろ行き着いた先に一緒にいたことがある友人達と会えてとても嬉しかった。
だから挨拶がてらにアルルやルルーに会って馬鹿をやってきて。
シェゾにも挨拶しておこうかと普段彼がいるとう洞窟を彼女達が教えてくれたので
洞窟周辺にやってきたのはいいのだが、

「シェゾ、そいつは…」
「ああ、自称時空の旅人。変態だ」
「ひどいなぁ。変態は君でしょ?」

誰が変態だ!という声が上がる。
彼に会った時、真っ先にシェゾにくっついている影が見えた。

今まで感じたことのない気配にラグナスは警戒を強める。
しかしシェゾにくっついているところを見るとそれほど悪い奴でもないのだろうか?

敵か味方か、ラグナスが判断しあぐねていたところにシェゾが言った。

「こいつは一時サタンと組んで厄介事起こした奴だ。気を付けろよ」

は?
あまりの唐突な発言にラグナスの顔はポカンとなる。

シェゾは今なんと言ったか。
サタンと組んで、厄介事を起こした?
それはつまり悪者とみなすべきか。

「だっておじさまと遊びたかったんだもん…あと君ともさ!」
「え?」

今度はシェゾがポカンとエコロを見た。
しかしその時には既にエコロはシェゾに入り込んでいた。

「お、おい…え…こ……、」

シェゾの声が途切れる。
と同時にいきなり声色が変わった。

「わぁ!闇の魔導師の身体だ!すっごーい!」
「シ、シェゾ?」
「今僕はシェゾじゃないよ。エコロって呼んでほしいな!」

どうやらエコロという存在にシェゾが乗っ取られてしまった。
それだけのことを理解するのに時間がかかった。
だからシェゾの身体を借りたエコロが急に近づいてくるのにも反応が遅れた。

「?!しまった…!」

剣を握る間もないラグナスは攻撃されることを覚悟し身構えた。
しかし次の瞬間攻撃の痛みはなく、代わりに身体全体に抱きつくシェゾの体温を感じた。

「へっ!!?」
「…ラグナス?」

抱きついたシェゾが小首をかしげる動作をする。
普段の彼がきない異様な動きにラグナスは動揺する。

(な、なななななっ何で小首を傾げるんだ可愛い
 いやそもそも男に可愛いとかあり得ないでもこの感情はっ…!!)

ぐるぐると頭の中で葛藤を続けるラグナスにエコロがにんまり笑った。

「あっはは!なーんて!君、この子のこと好きなんだ?」
「そ、そんなわけないだろ!シェゾは男だぞ!?」

意表をつかれたような言葉を必死に否定する。
シェゾはあくまで友人で恋愛対象としては、…。
そんなラグナスにお構い無し、シェゾの身体を借りたエコロが腰をすりよせる。

「そんなに好きなら…俺のことめちゃくちゃにしてもいいぜ?」
「ぶぅふ!!?」

わざわざ口調を変えて頬を赤らめたシェゾの姿にエコロとはいえ
大いに吹き出したのはしょうがない。
このまま押し倒してしまえという思考と相手はシェゾだしかも中の人が違うという思考がぶつかり、
ぷしゅっと思考がショートした。

「メガレイブッ!!」

あまりの動揺につい魔導の呪文を至近距離で放った。
シェゾがふっとばされ、それと共にエコロが身体から飛び出た。

「いったいな~!いきなり何するのさ!」
「男の純情を弄ぶ悪魔め…許さん!!」
「うわっうわわああ!!」

シェゾがうっすらと目を開け、のっとられていた身体を起こす。
頭がズキズキするが、何やら騒がしい声の方を見ると
ラグナスがエコロに対し剣を振り回し追いかけていた。

「んー…な、何だ?」

自分がエコロにのっとられたのは覚えているが、
状況がよくわからない。

「大体お前『異世界移動』とか『身体乗っとり』とかいろいろ俺とキャラが被るんだよ!!」
「君が後からやってきたのにその言い草はないんじゃないかな?!」
「うるさいっ!そこになおれ!叩き切ってくれる!!」

遠くで喚く二人を一瞥し、
とりあえずまた自分の周りがうるさくなったというのが分かったシェゾは
これからのことを思うと頭が痛くなってくるのだった。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。